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 授業科目
 Course Title
日本文化論(古典文学)
Japanese Cultural Theory (Pre-modern Literature)
 担当者
 Instructor
教授   深澤 徹  前学期 水曜日2時限
 単 位
 Credit
2

到達目標 Target to be Reached
 本講義の到達目標は、受講生が、日本の平安朝から鎌倉期における「歴史叙述」の特質について、より深く理解することにある。一口に「歴史叙述」といっても、個人のレベルから、国家レベルのものまで、その形態は多様である。ついては、二つの切り口を考えたい。ひとつは、「歴史叙述」を通して、歴史の中から個人というものが析出されてくる過程を跡付けること。いまひとつは、中国を中心とした東アジア儒教文化圏の辺境・周縁に位置した日本の、その「歴史叙述」の特質を、「タテ」ではなく、「ヨコ」というキーワードを通して理解することで、ポストモダンにおける価値相対化を先取りするような発想を見て取ること。その際の導きの糸として、ドイツの思想家ワルター・ベンヤミンの「歴史」につての発想や、小説家水村美苗の「翻訳」についての発想を参照したい。
 したがって受講生には、
 ①「歴史を書く」とは、どのような営みなのかということを考えること、
 ②日本における「歴史を書く」営みを具体的に理解すること、
 加えてその際には、
 ③東アジア儒教文化圏の中での、日本の「地政学的位置づけ」を念頭に置く発想が求められる。
 本講義を受講することで、受講生は、日本の「歴史叙述」が持つ文化的・政治的特質について認識を深めることができるはずである。
 
授業内容 Course Content
 誤解しないでほしいのだが、本講義では、実際にどのような「歴史」が展開されてきたかを学ぶのではない。そうではなくて、平安期から鎌倉期にかけて、日本では「歴史」はどのようにとらえられてきたか、またそれはどのように書かれてきたかについて考える。
 したがって本講義では、下記の使用書(テキスト)に沿って、過去の「記憶」を整序する方法としての「歴史叙述」の、日本における形成過程を跡付けることとなる。その際のキーコンセプトが、「タテ」ではなく「ヨコ」、そして「翻訳」という概念だ。教科書的なジャンル分けや、テキストの歴史的変遷過程などの「タテ」系列の関係を、まずは疑問視することから始めたい。日記文学(たとえば更科日記)も王朝物語(たとえば源氏物語)も軍記物語(たとえば平家物語)も、それが個人や共同体の「記憶」にかかわるテキストである限りにおいて、六国史に代表される「正史」に対抗して、そこから「ヨコ」にはみ出すようにして書かれた、独自の「歴史叙述」のあれこれに加えていい。
 なお、その際の思考の補助線として、ナチ体制下にユダヤ系ドイツ人として亡命生活を強いられ、ついには自殺に追いやられたワルター・ベンヤミンによる、歴史についての考え方や、欧米文化との「ヨコ」の関係の中で、日本語・日本文化について考えた、水村美苗のバイリンガル小説『私小説』、さらには同じく水村美苗によって書かれた衝撃的な評論『日本語が亡びるとき』が投げかける問題にも言及する予定である。
 
授業計画 Course Planning
 各回の講義内容は、以下のように予定されている。
 予習としては、
 ①括弧内に指示した使用書(テキスト)のページを、あらかじめ読んでおくこと、
 ②さらには配布された資料等にもあらかじめ目通ししておくことが必要である。
 復習としては、
 ①講義内容とテキストの記述との関連性、
 ②さらには配布プリントとの関係づけを把握するために、聴講ノートの作成を義務付ける。

1.イントロダクション-まずシラバスの記載事項について確認した上で、「冊封体制」から外れた日本の地政学的位置付け(使用書p239~)について考える。
2.ベンヤミンの「歴史の天使」における、歴史のクズ拾いについて考える。
3.水村美苗『日本語が亡びるとき』が投げかける問題について理解する。
4.「英語の世紀」の訪れと「日本語文学」の行方について考える。
5.水村美苗『私小説』が投げかける問題(使用書p198~)について考える。

6.水村美苗『本格小説』が投げかける問題(p170~)について考える。
7.価値相対化のポストモダンと、価値ヨコ並びの日本文化の特質とを対比する(使用書p14~)。
8.歴史叙述のジャンル横断的な表現史を試みる(使用書p42~)。
9.歴史物語の特質について考える(使用書p62~)。
10.『愚管抄』の語りの特質について(使用書p72~)

11.『愚管抄』の政治性について(使用書p87~)
12.『愚管抄』の当事者性とその中世的特質について(使用書p117~)。
13.日記文学の特質について考える(使用書p140~)
14.平家物語とそのバージョンについて(使用書p148~)
15.ベンヤミンの「歴史の天使」と日本の「歴史叙述」とを関係付けてまとめる。
 
授業運営 Course Management
 講義形式で授業を進める。使用書(テキスト)をインデックスとしつつ、古典のテキストに言及していくが、原文はその都度現代語に訳し、意味を説明した上で講義を進めていく。したがって、高校の古文の基礎的知識があれば対応できる内容である。
 
評価方法 Evaluation Method
 記述式の臨時テスト(40%)を講義期間の半ばくらい(8回目を予定)に行い、それと最終試験(60%)とを合わせ、2回の試験を行う。
 すべて持ち込み可とするが、その理由は、その場で論述式の小論文を作成してもらうためである。その記述内容もさることながら、記述式の文章の形式面での完成度も、最大限重視する。したがって図式化や、箇条書きは認めない。単なる断片的な知識を問うのではなく、様々な項目を有機的に関連付け、それを筋道立てて論理的に記述していく日本語の「作文能力」が、どの程度身についているか、それを実践の場を通して評価する意図だと理解してほしい。

 なお正当な理由なく、講義を三分の一(5回)以上欠席した者は、評価の対象としない。
 
オフィスアワー Office Hour (s)
 月曜日3限、金曜日3限の時間帯。17号館430研究室(内線4318)にて。なお、質問や指摘は講義後にもその場で受け付ける。
 
使用書 Textbook (s)
深沢徹『往きて、還る!』[現代思潮新社]2011

参考書 Book (s) for Reference
深沢徹『自己言及テキストの系譜学―平安文学をめぐる7つの断章』[森話社]2002
水村美苗『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』[筑摩書房]2008
深沢徹『都市空間の文学』[新典社]2008

 
 
 
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